乙坂智 2年ぶりのメキシコも過酷な日々「明日打てなかったらと考えたら…」 乗り越えた先に期待する”新たな自分との出会い”

昨年まで3年間海外でプレーしている乙坂智選手。メキシコのあとはベネズエラでのウィンターリーグを経て、23年はアメリカ独立リーグに活躍の場を移した。

ここで打率.330・42盗塁という結果を残し、昨年は再びメキシコでプレー。

最終回となる本編では24年シーズンそして、自身が描く未来像について語ってもらった。

>第3回はこちら

(取材 / 文:白石怜平)

昨年は2年ぶりにメキシコへ

23年のウィンターリーグは、再びベネズエラのブラボス・デ・マルガリータでプレー。ここを選んだ理由はある目標があったからだった。

「前年プレーオフに出られなかったのですが、僕はカリビアンシリーズに出たかったんです。と言いますのも、日本人ではトレーナーさんは2人いるんですけども、選手ではまだシリーズに出た人がいないんです(※24年12月当時)。僕はその最初になりたいと思い、もう一度お世話になることにしました」

しかし、チームはプレーオフに進出するもカリビアンシリーズにまでは届かなかった。それでも自身は打率.327・17盗塁をマークし、2年連続盗塁王に輝いている。

2年続けてベネズエラのウィンターリーグでも結果を残した(昨年12月撮影)

そして海外挑戦3年目の昨年は、再びメキシコに戻ってきた。3月、レオネス・デ・ユカタン(英語名:ユカタン・ライオンズ)に入団した。

DeNAを退団した後にもそうだった、”一番最初に声をかけてもらったチームに行こう”と考えており、ユカタン・ライオンズが真っ先に声をかけてくれた。

2度目のメキシコそして海外での生活も慣れていると感じたが、「今回は応えました」と心境を吐露した。

「ユカタンは3月から行ったんですけども気温が38度だったんですよ。4月ですでに40度越えとかで。それはきつかったですね。メキシコシティは寒いですし。

ただ、あの時は寒い暑いとかそんなこと言ってられなかったです。やるしかなかった。いろんなことが海外だと起こるので。飛行機が飛ばないとか、ホテルチェックインできないとか、バスが遅れたとか…

一年目は去年以上にとにかくやるしかなかったので、気にならないことはなかったですが、去年は応えましたね」

気温や治安などの逆境も乗り越えてプレーした (写真:本人提供)

酷暑下でプレーするにおいて、調整方法も変えた。それが結果へと直結した。

「僕の感覚の中だと、試合前に練習して臨むんですよ。でもユカタンの選手たちはみんなやらないんです。後から気づいたんですけど、練習したら体もたないなと。最初練習してから試合入った時は打てなかったんですけども、練習量を抑えたら盛り返せました」

前回のメキシコでのプレーでは1シーズンで3球団を渡り歩いていたが、昨年はシーズン通してライオンズに在籍。ただ、順風満帆に過ごせたわけではなかった。

「抑えやってた投手が2、3試合失敗すると『あれ、最近球場いないな』ってなる。クビになったと。この前まで抑えをやってたのに驚きましたね。僕も数日打てない日が続いたら寝られなかったです。明日打てなかったらと考えたら怖くて…」

打率も一時期.260台まで落ちた時は解雇が頭によぎったという。ただ、この3シーズンの間で修羅場を潜り抜け生き残ってきた男。また発想を変えてエンジンを入れ直した。

「もう”どうせクビになるなら思い切ってやろう”と思って開き直ったら盛り返せたんです。ただ、生きた心地がしなかったです。二軍落ちとは訳が違いますし、野球できなくなるわけですから」

”明日も野球ができるのか”という不安とも闘っていた(写真:本人提供)

24年は65試合に出場して打率.295、12盗塁の成績でシーズンを終えた。

22年以降、ウィンターリーグを含めて3カ国で野球をしてきた。DeNA時代にもオフに海外でプレーしていたが、ここまでも「今だから気づけた」とたくさんの収穫を話してくれた。改めて毎日が激動の3年間を振り返った。

「一番は周りに恵まれてるなと。一人じゃ生きていけないことがより明確に分かったので、支えてくれた通訳さん・両親や先輩、そして応援してくださる方たちのありがたみを一層感じました。

ベイスターズを辞めてから離れていく人も正直いたのですが、それでも変わらず自分を鼓舞してくれる人がいてくれたことが一番嬉しいなと今改めて思います」

今オフは「修行しようと」日本で過ごす

昨シーズン終了後、ウィンターリーグには参加せずに日本へ帰国した。新たなシーズンに備えつつ、例年とは違ったオフを過ごしている。

「このオフは(ウィンターリーグに)参加しないことにしたのですが、開幕からずっと突っ走ってきたので、夏には体がボロボロだったんです。家族との時間を大事にしたかったのもありましたし、あとは25年のシーズンをしっかり走り切るために修行しようと決めました」

乙坂がプロ入り時から大切にしているのはフィジカル。

DeNAに入団直後にその差を感じてから、横浜高の先輩でもある筒香嘉智からのアドバイスもあってウェイトトレーニングなどで強い体をつくってきた。

「海外は4月から始まって1月に終わるんで長丁場。マックス出たら180試合くらいあるので、それを乗り越えられるようにフィジカルを強化しています」

今は日本でトレーニングを重ねている(24年12月撮影)

なお現在はまだ所属が決まっていはいないが、オファーは受けているという。また、海外で日々生き残るための挑戦が始まろうとしているが、自身が野球人として目指す方向について語り締めた。

「最近考え直しているんですけども、新しい自分との出会いを楽しみながらやっていきたい。そこでまた出る感情や言葉が人生の財産になるので、これからもどんどん突き進んでいきたいです」

さまざまな国を渡り歩く中で、変わっていった思考をいくつも明かしてくれた。3年間で「人見知りしなくなりました(笑)」と語り、常に変化に出会い、自分のものへと吸収してきた。

今シーズンまたどんな発見があるのか。野球を通じた”旅”の続きは再び南米で続編を自ら記す。

(おわり)

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