「現役の時から引退後のビジョンを」元ヤクルトスワローズ・宇佐美康広さん プロの先輩として贈った現役選手へメッセージと今後の目標

元ヤクルトスワローズでプレーし、現在は埼玉県戸田市にある野球用品専門店「ロクハチ野球工房」を営む宇佐美康広さん。

全4回にわたるインタビュー企画はいよいよ最終回。ここでは、選手を引退してからさまざまなフィールドで結果を出し続けてきたマインド、そして今後の目標を伺った。

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(取材 / 文:白石怜平)

「常にチャレンジして来た」これまでの人生

25歳でプロ野球選手生活にピリオドを打った宇佐美さんは、その後広告代理店、不動産の営業などを経て現在に至っている。

これまで勤めてきた職種はさまざまであるが、どこに行っても結果を出し社会で生き抜いてきた。その要因はどこにあるかを伺った。

「常にチャレンジしてきた。あれこれ考えても仕方がないし、ダメだったら次考えればいいと思ってきた。高校でドラフトに掛かってプロに入ったのも自信はなかったけども、やってみなければわからない。それで思い切って上京してきたという自分の考えがありました。

このお店をやることにもたくさん反対されましたよ。『これから野球人口は減るのに絶対売れない』『そんなの無理だしやめたほうがいい』って言われましたし。確かにサラリーマンをやっていれば安泰だったと思います。

でも、自分がもっと輝ける場所があると思い脱サラをしてお店をやった。今はおかげ様で順調ですし、このお店を始めて本当によかったなと思います。毎日が楽しいです」

挑戦をし続けて今へと至っている

現役選手たちへのアドバイス「今からセカンドキャリアの準備を」

引退後のいわゆる”セカンドキャリア”で成功を収めている宇佐美さん。今ユニフォームを着てプレーしている現役選手に伝えたいことは何か。プロの先輩として訊いた。

「もし今自分がプロ野球選手でプレーしていたとしたら、もう今からセカンドキャリアを意識して動いていると思います。引退が決まってから探すのではなくて、現役時代から”引退後何をやろうかな”とビジョンを考えます。

例えば指導者を目指すのか、僕みたいに全く違う道へ行くのか。それによってやる事は変わってくると思います。飲食店をやりたいのであればそこにつながる知り合いをたくさん作っておくとか。

あと知識を入れることもしておいたほうがいいです。今はいくらでも情報はありますから。そこのビジョンをしっかり固めていた方が野球も一生懸命やれると思うんです」

現役選手たちにアドバイスを贈った

宇佐美さんは自身の引退時に一度野球界から離れたのは、「世の中にどんな仕事があるのかを知りたい」という思いからであった。そういった考え、ビジョンがあったからこそ異業種の世界に飛び込むことができた。

「何もなかったら路頭に迷うだけになってしまう。例えば選手会がケアをするようにして、セカンドキャリアのカウンセラーなどを紹介して対応の場をつくるなど、何か考えるきっかけを設けたほうがいいです。成績が出なかったらクビです。後は自分でどうぞだと選手たちがかわいそうですから」

プロ野球の世界に飛び込んだことが全ての原点

宇佐美さんも人生における転機を自身で手繰り寄せ、そのチャンスをモノにして来た。数ある中でのターニングポイントを聞いた際、何が一番だったかを明かしてくれた。

「一番はヤクルトに飛び込んだことだと思います。プロからドラフト指名されるなんて微塵も思っていなかった。高校を卒業しても野球はやりたいと思っていたけれども、家のことを考えて社会人野球に進むつもりでした。

その中でもある社会人チームが熱心に誘ってくれて、夏休み期間中には内定をいただいていた。でも、ドラフトでは指名を受けたわけですよね」

一番の挑戦がプロ野球の世界に飛び込んだことだった

宇佐美さんも3日間悩んだという。ドラフト会議で名前が呼ばれると社会人チームも学校に問い合わせていた。そこで監督が間に入りチームと交渉し、最終的に自身が下した決断は”ヤクルトで挑戦すること”だった。

「プロで通用する自信は全くなかった。ヤクルトを断って社会人を経てプロに行く道もありましたが、仮に怪我をしてプロに行けませんとなったら絶対後悔すると思いました。

もし、『プロは無理だから社会人で力をつけてから』となっていたら、全く別の人生だったと思います。なので、一番のターニングポイントは思い切ってプロ入りして東京に出てきたことだと思います」

当時18歳の青年が北海道から海を越え、本州へと上京してきた。

「津軽海峡を渡ってここに来るって結構覚悟が必要なんです」と笑顔で振り返った。

「お店を通じて野球の魅力を発信し続けていきたい」

ロクハチ野球工房はオープンから6年半になろうとしている。たくさんあるこの仕事のやりがいについてこう語った。

「野球を通じてみんなに喜んでもらえることです。グラブの型をつくって柔らかくするとすごく嬉しそうな表情を見ることができる。さらにお金をいただいているのに『ありがとうございました』ってお礼を言って帰ってくれるんですよ。

それがすごい嬉しいですよね。常にお客様と対面して、『ありがとうございました』の声がたくさん聞けるのは幸せなことですよね」

宇佐美さんは他にも硬式野球のクラブチーム「GXAスカイホークス」でコーチを務めている。ヤクルト時代の先輩である副島孔太さんやギャオス内藤さんらとともに、毎週木曜日の9時~13時、神奈川県に出向いている。

今は野球を通じて充実した日々を送っている

そのあと戻ってからお店を開店させるなど充実した”野球生活”を送っている。そんな宇佐美さんに今後の目標を語ってもらった。

「ずっとお店をやって行くことで、野球を楽しんでくれる子を一人でも多く見出したいです。

このお店に来てくれたことがきっかけで、野球を好きになってくれた。良いプレーができるようになったなど、野球で成功してくれる人が増えてくれることが自分の幸せです。

1年でも野球を長くやって続けてもらって、お店を通じて野球の楽しさとか魅力を感じてもらえると嬉しいですね」

津軽海峡を超え挑戦してきた先に、野球界の未来がまだまだ照らされている。

(おわり)

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