「スポーツマン・シップデー2025」が6月29日、都内で開催され、日本スポーツマンシップ大賞のグランプリに、パリ五輪で金メダルを獲得した体操競技の男子日本代表選出された。チームを代表して、萱(かや)和磨選手(28)が表彰式に出席した。(表紙写真は日本スポーツマンシップ協会の提供)
大谷翔平も受賞
萱は、マイクに向かい「体操は不思議な競技だなって、僕は思うんですけど…」と口を開いた。日本スポーツマンシップ大賞のグランプリを受賞した直後の挨拶だった。
「試合中でも(対戦相手と)ハイタッチとかするんです。試合後も各国でたたえ合う。これ、すごくいい文化だと思いますし、スポーツ界にこういった体操の面白さ、素晴らしさを伝えていきたいと思います」
日本スポーツマンシップ大賞は2020年(令2)から始まり、よきスポーツマンシップを示した個人、団体を表彰している。これまで大坂なおみ選手(テニス)、大谷翔平選手(野球)らが受賞してきた。
今回、体操チームが評価された点は多々ある。
まず、昨年のパリ五輪において、大逆転で金メダルを獲得した活躍。
東京五輪では0.103ポイント及ばず銀メダルに終わったが、雪辱を期してチームが団結して臨んだ反骨精神。
パリ五輪ではリードされる展開ながら、あきらめなかった不屈の心。
さらには、橋本大輝選手が観客席に向かい、右手の人差し指を口元に置くジェスチャーも話題になった。ライバルチームが演技に集中できるように、「静かにして」という意味の行動で、テレビ中継でも「これがスポーツマンシップです」とアナウンスされている。
つまり、金メダル獲得という結果や体操の技術だけでなく、そこに至るまでの選手たちのメンタリティー(精神性)が注視された賞である。

萱が、舞台裏を明かす。
「点数の競技なので、演技がある程度成功すれば、勝ったなというのは分かるんです。パリの時もそうで、最後の橋本選手が立った(着地に成功した)時点で勝っただろうなというのはあったんですけど、ちゃんと点数が出て、電光掲示板に“JAPAN”と出るまでは、喜ぶのはやめようと。(喜びを)グッとこらえて、中国の選手の点数が決まって、そこから喜ぶのが筋だなと」
確かに、五輪の映像を見返すと、日本チームの選手たちは肩を組んで、中国選手の得点発表を見守っている。抱き合って喜び、歓喜の涙を流すのは、順位が正式に決まった後である。
すべての行動は、対戦相手に対する敬意の念から生じている。
「勝負の世界なので当然勝ちたいんですけど、恰好よく勝ちたいというか…自分たちも、相手も、どちらも成功して、その上で勝ちたいんです。ミスで勝負がつくとモヤモヤするというか、互いにベストの演技をして勝つのが一番です」
スポーツは勝敗が決まる競技であり、各選手やチームは、勝利を目指して全力を尽くす。目標は勝利である。しかし、勝利がすべてではない。そこがスポーツの尊さだと、アスリートから学ぶ機会は多い。萱の言葉も、彼らの活躍とともに語り継いでいく価値があるだろう。
【その他の受賞者】
★ヤングジェネレーション賞 弘前学院聖愛高校野球部(昨夏の青森大会において、選手の発案で、笑顔で手を振る新しいスタイルの入場行進を行った)
★グランプリ特別賞 堀米雄斗(スケートボード=スケボーの未来を信じ、最後まであきらめずに成し遂げた奇跡の五輪連覇)
★ヤングジェネレーション特別賞 開心那(スケートボード=スポーツの本質を理解し、よき仲間たちと高め合っている)

◆飯島智則(いいじま・とものり)1969年(昭44)8月6日、横浜市出身。93年日刊スポーツに入社し、東北地区のスポーツ全般を取材した後、東京本社野球部で98年ベイスターズの優勝、長嶋茂雄監督時代の巨人を担当し00年ONシリーズなどを取材。03年からは渡米してヤンキース松井秀喜選手に密着。05年からはNPB担当で球界問題を担当した。野球デスク、広告事業部、特別編集委員などを歴任し、24年限りで退社。現在は大学教員とスポーツライターの二刀流で活動している。
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