暑さ指数による規定
今年も暑い夏がやってきた。スポーツには適さない気候になっているが、この時期は高校野球をはじめ、各種スポーツ大会が真っ盛りで、熱中症の対策は欠かせない。あらためて熱中症対策をまとめたい。
7月5日、独立リーグ「ルートインBCリーグ」の神奈川フューチャードリームス―栃木ゴールデンブレーブスの試合(横須賀スタジアム)は、7回で終わった。栃木が7―2で勝利している。
翌6日も同戦、さらには群馬ダイヤモンドペガサスー信濃グランセローズ(長野県営野球場)も、7回で終わっている。
7回で終わった理由は「暑さ指数(WBGT)」である。
WBGTとは、「Wet Bulb Globe Temperature」の略語で、訳せば「湿球黒球温度」。気温だけでなく、湿度や日射、輻射熱(ふくしゃねつ=日射や地面からの照り返しなど)をもとに算出する。WBGTの値が高いほど、熱中症のリスクが高まるとされる。
ルートインBCリーグは開幕前に、熱中症対策として以下のような方針を打ち出した。以下、同リーグのホームページからの抜粋である。
■WBGTの計測
・6月1日~8月31日において各球場にて試合開始1時間前にWBGTを計測し、暑さ指数が31℃を超えた場合、当該試合は7イニング制とする。
・17時以降に開始となる試合については、イニングの制限をしないこととする。
すべてナイターで実施すればいいのだが、同リーグは地域に密着して、さまざまな球場で試合を行っており、ナイター設備が整った球場ばかりではない。
WBGTを基準にする判断は、環境省も推奨している。BCリーグの試みにより、ジュニア世代をはじめとしたスポーツ界に広まる契機になればと願う。

なお、WBGTの測定には黒球温度、湿球温度、乾球温度が必要で、スポーツの現場では手軽に測れない場合が多いが、環境省「熱中症予防情報サイト」からも目安を確認できる(環境省熱中症予防情報サイト 暑さ指数)。
高校野球でも、様々な対策を講じている。
甲子園大会では、5回終了時に「クーリングタイム」を設け、冷房が効いたベンチ裏で体を冷却している。朝夕に分けた2部制は、今年も継続されると発表されている。また、背番号も2枚用意され、試合中にユニフォームを着替えられるようにしているという。
選手権大会を主催する朝日新聞が5月18日に都内で開催したシンポジウム「スポーツと熱中症」には、日本高校野球連盟の宝馨会長も出席し、現状案に一定の効果を認めながらも「暑さ対策にゴールはありません」と、さらなる工夫を講じていく考えを口にしている。
さて、今年の夏が終われば、高校野球では7イニング制への移行について、議論が本格化するだろう。高野連では6月30日から7月11日まで、関係者のみならず広く意見を募る公開アンケートを実施している。
※高野連のアンケートはこちらから→→https://www.jhbf.or.jp/questionary
選手や応援団、観客の健康が最優先であることは議論の余地がない。アマ、プロを問わず、またスポーツに限らず、すべてにおいて「健康」や「安全」に勝る重要案件はない。
その点を軸に置けば、7回制に限らず選択肢は広がる。例えば、空調の効く京セラドームを使う方法もある。もちろん高校球児にとって、甲子園球場が特別な舞台だと理解している。
しかし、競技そのもののルールを変更する必要に迫られるのであれば、1つの選択肢として検討する余地はあるだろう。
開催時期の変更、トーナメント方式の見直し…経費の問題は、事業方法から見直してクリアする方法もある。
こうして具体例を考えると、慣れ親しんだ従来通りの方式であってほしいと思う。だが、そこに無理が生じている以上、7イニング制だけで論じるものではない。
選手たちの安全を守りながら、高校生が憧れる舞台であり続ける…そんな方法がないだろうか。
日本気象協会の予報によれば、今年の夏は全国的に平年より気温が高くなる可能性が高いという。

【主な参考文献】
・ルートインBCリーグ、ホームページ(https://www.bc-l.jp/news.php?keyno=1479) 7月7日閲覧
・日本気象協会ホームページ(https://tenki.jp/long/three_month/) 7月7日閲覧
・環境省「熱中症予防情報サイト」(環境省熱中症予防情報サイト) 7月7日閲覧
・日本高等学校野球連盟ホームページ(アンケート | 日本高等学校野球連盟) 7月7日閲覧
・一般社団法人日本スポーツ医学検定機構(2017)『スポーツ医学検定公式テキスト 2級・3級対応』(東洋館出版社)
◆飯島智則(いいじま・とものり)1969年(昭44)8月6日、横浜市出身。93年日刊スポーツに入社し、東北地区のスポーツ全般を取材した後、東京本社野球部で98年ベイスターズの優勝、長嶋茂雄監督時代の巨人を担当し00年ONシリーズなどを取材。03年からは渡米してヤンキース松井秀喜選手に密着。05年からはNPB担当で球界問題を担当した。野球デスク、広告事業部、特別編集委員などを歴任し、24年限りで退社。現在は大学教員とスポーツライターの二刀流で活動している。
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